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古代インドの宇宙観といわれる図



古代インドの宇宙図

 観測技術の進歩によって宇宙の実体が分かってきたのは、ほんのここ数百年のことです。それ以前は世界のありさまというものは想像に頼るしかありませんでした。天文学の入門書には、そうした古代人の考えた宇宙の構造図が紹介されています。しかし、当時の人たちは、それを本気で信じていたのでしょうか。
 例えば、日本には「桃太郎」の昔話があります。しかし、「桃から生まれた」とか「犬・猿・キジを家来にして」といったくだりを実話だと信じて語る大人は今も昔もいませんし、聞いている子どもたちも奇想天外なフィクションであると知って楽しんできたはずです。
 古代インドの宇宙観としてよく紹介されるのが蛇と亀と象が重なって世界を支えているという図ですが、これについて2012年の天文教育研究会で興味深い発表がありました。この図は、19世紀ドイツの通俗本が初出で、
そのままの図案はインドでは見当たらないそうです。そもそもこの図はヨーロッパ人がアジアを見下す目線で、インド人の思想を面白おかしく描いたものではないか、というわけです。それが今日まで伝えられてきたのは「無知な古代人」という共通認識が、われわれにもまたあったからかもしれません。
 実はインドは東西の文化が交流する場でもあり、天文学も発達した地域でした。中国・日本などにも影響を与え、巨大な天体観測施設は、今も観光名所として人気です。それにもかかわらずインド天文学といえば出自の怪しい宇宙図ばかりが紹介されるというのは、なんとも残念なことです。




案内役 美星天文台技師 中内 弘(2019年2月掲載)