平四郎は、
「それなら、この船は
無用
(
むよう
)
だ。」
と言って、近くにあったやなぎの木に船をつりあげてしまいました。
船頭は、あまりの力におどろいて、
「船をおろしてください。むこう岸までお渡ししましょう。ところであなた
様は、いったいどちらからおいでになりましたか。」
と、おそるおそるたずねました。平四郎は、
「渡してくれるのならおろしてやろう。わしは、
備中
(
びっちゅう
)
高屋の者だが、
おまえのようなえらそうなやつはこらえんぞ。」
と、しかりつけました。それからのち、「備中高屋の人なら、
船賃
(
ふなちん
)
はいりません。」と言って、ただで渡してくれたということです。