本文
源頼朝公像
- 源頼朝公像
- 1933年
- 木彫彩色
この作品は、鎌倉八幡宮の中にある白旗神社の本尊として、依頼され作ったものと同型です。
奉納するためには、古様にならって彩色をする必要がありました。彩色は、彫刻のもつ量感や刀の切れ味など、素材のもつ趣を損なうとして、明治以降はあまり行われていませんでした。彩色は邪道であるという批判があるにもかかわらず、田中の作品には、これ以降圧倒的に彩色像が多くなります。それには、古様復興の意識があったこと、そして、彩色によって作品をより良く生かすことができるという信念があったためと思われます。
田中は、明治以降の最も優れた彫刻家について、「一に竹内久一。二がなくて、三が森川杜園」と言いきっています。両者とも彩色木彫家であり、田中自身も初めて彫刻の手ほどきを受けたのが、彩色木彫の人形師・中谷省古でした。省古の作品は、かなり丹念な彩色で、その丁寧な仕事ぶりは、田中に強い影響を与えたであろうと思われます。彩色することによって、伝統木彫の系譜に連なるという意識があったのではないでしょうか。